市役所の面接では、多くの自治体で次のことを聞かれることになります。
②自己PR
③学生時代に最も力を入れたこと(転職の場合は民間での経験)
このうち、最も受験生が悩むのは①の志望動機でしょう。
そして、面接で最も重要となるのも①の志望動機です。
「安定した職種に就きたいから」といった理由は面接では通用しませんので、しっかりと説得力のある志望動機を作らなければなりません。
そこで今回は、市役所志望の受験生に向けた志望動機の作り方を紹介します。
公務員試験全般における志望動機の考え方や例文は、下記の記事でも紹介しているので、併せて参考にしてください。
市役所における面接の重要性
市には、政令指定都市、中核市などがありますが、どの市も志望者は多く倍率が高い職であることは間違いありません。
また、市の規模が小さくなればなるほど採用人数も少なくなる傾向にあり、さらに近年多くの市では、面接を重視した「人物重視」の傾向にあります。
これまでは1次試験で教養などの筆記試験が実施されていましたが、近年はSPIなどの簡単な筆記試験に切り替えて、面接試験に比重を置いている市が増えています。
そのため、市役所に合格するためには面接がとても重要であり、対策は必須となっているのです。
例として、令和5年度の東京都八王子市(行政A:大卒程度)の受験者と合格者の人数を見てみましょう。
→うち合格者:449人
→最終合格者数:94人
約900人もの人が受験し、最終的には約100人のみが合格しています。
さらに、八王子市の試験方法(令和6年度の場合)は下記のようになっています。
2次試験:適性検査、グループワーク
3次試験:個別面接
1次の筆記試験後は、個別面接やグループワークで人との対話を見られる試験が重複しており、面接が重要視されていることが非常によく分かります。
この八王子市の例は何も特別というわけではなく、その他の市役所でもよくある選考方法です。
東京都特別区などの大きな自治体と比べると受験者数は少ないですが、その分採用人数も少なく、狭き門となっています。
市によっては、最終合格者予定数が「若干名」というところもあり、その場合にはさらに人数が絞られることになります。
また、八王子市の例からも分かるように、多くの市役所では面接(グループワーク含む)は1回だけではなく、2回以上行われることも多いです。
個別面接や集団面接、市長が面接官として同席するなど、最終合格までに様々な形式の面接が実施される市も少なくありません。
市役所の業務は住民と直接接することが多いので、筆記試験では見抜けない人柄やコミュニケーション能力などをみて、我が市に貢献してもらいたいと思っているのです。
つまり、面接対策は筆記試験と同等かそれ以上にしっかりと時間をかける必要があるということです。
志望動機で求められているもの
では、具体的に市役所の志望動機としては、どのようなものが求められているのでしょうか?
結論から言うと、市役所側は「意欲や熱意のある人材」を求めています。
市役所の業務というのは多岐にわたり、部署ごとに異なる仕事を担当していますが、業務の全てが市民と関わりの深い重要なものです。
そのため、誠実に、ミスなく、コツコツと着実に仕事をこなしていく姿勢が職員には求められています。
また、市役所には日々様々な市民が来庁します。
善い市民もいれば、中にはクレーマーと呼ばれるような市民もいて、それぞれの市民に対し適切かつ柔軟に対応しなければなりません。
幅広い種類の仕事や多様な属性を持つ市民に対し、意欲的に市役所で尽力してくれるのかを面接で見極めているのです。
さらに、市役所(公務員)の仕事は終身雇用で定年まで働くというのが前提になっています。
近年、民間企業では数年で転職することも珍しくない時代にはなりましたが、公務員の場合は違います。
公務員の採用や育成におけるコストは税金で負担しているので、数年で辞められてはコストと成果が見合いません。
そのため、意欲的な人は「長く働いてくれる」と判断されやすいので、そうではない人よりも評価されるという仕組みになるのです。
そして、熱意のある人ほど仕事に対して積極的で、主体的に行動することができるとみられています。
面接官は、受験生がどのくらい自分たちの市について理解を深めているかを観察しており、その理解を深めるために積極的に調べてきた人を採用したいと考えています。
「主体的に行動する」というのは、市役所職員として必要なスキルであることは確かです。
志願動機一つとっても、その人の熱意や行動力が伝わるものなので、ぜひしっかりと考え、調べ、万全の状態で臨んでください。
ただ、ここで注意したいのは、熱意がズレた人にならないようにすることです。
例えば、面接の中で「○○市役所に入ったら、△△や□□をして貢献したい!」と伝える受験生がいますが、その市の抱える課題等を全く把握せずに、ただ”こうしたい”と願望のみで伝えるのでは問題があります。
志望動機を作るときには、必ず現実的な範囲で意欲や熱意を込めたものを作成するようにしましょう。
志望動機の作り方
ここからは、具体的に面接でよりよく自分を伝えるための志望動機の作り方を紹介していきます。
といっても、基本に沿うことも重要であるため、「そんなの知ってるよ」と思うこともあるかと思います。
面接対策本に書かれているような内容も多々ありますが、基本を押さえることもまた重要であることを理解し、しっかりと対応できているかを確認してみてください。
1.その市を志望したきっかけを考える
2.その市でなければならない理由を考える(志望理由・やりたい仕事)
3.なぜ、市役所職員なのかを考える
4.市役所職員としての自分の適性はどこにあるのかを考える
面接対策としてまず、「民間企業ではなく、なぜ公務員を志望したのか、なぜ国家公務員ではないのか」という部分を考えさせる市販の本もありますが、先に”志望したきっかけ”を考えることをおすすめします。
「なぜ、公務員なのか」を先に考えてしまうと、どうしても職業としての安定性や、福利厚生の充実度など、面接にそぐわない考えが先行しやすくなってしまうからです。
先に「なぜ、○○市の職員を目指すのか」「そこで何がしたいのか」を考えることによって、自分がやりたいことが市役所職員の仕事である理由を明確にしやすくなります。
それぞれの手順について、さらに詳しく見ていきましょう。
1.その市を志望したきっかけを考える
(1)「本音」の部分
まずは、自分の中の「本音」の部分を洗い出しましょう。
面接では使用しないことも多いので、正直な理由を書き出してみてください。
例えば、以下のような本音があったとします。
当然このまま面接官に伝えるのはNGですが、
このように伝えると、本番の面接でも十分に使うことが可能となります。
上記のように、他の日程の市役所も併願している、なんてことは面接官は承知の上で面接を行っていますので、上手く本音を出せるフレーズを考えておくことも必要です。
面接官の年齢は様々ですが、50~60代など自分の両親と同世代かそれ以上の人も多くおり、たくさんの受験生を相手にしてきていますから、本音を隠してその場の嘘をついても簡単に見破られてしまいます。
しっかりと対策をした上で、本音を上手く志望動機に変えられるようにしておきましょう。
(2)具体的なきっかけ
次に、志望するに至った具体的なきっかけを洗い出しましょう。
例えば、「説明会に出席したときのこと」や「OB訪問で職員から話を聞いたときのこと」などを上手く志望動機に盛り込むのはおすすめです。
実際に具体的なきっかけがあって志望している方は、市役所の業務をよく把握していて、自分が働いたときの具体的なイメージをつかんでいることが多いです。
実際に働いてみて「こんな職場だとは思わなかった」と後悔しないためにも、しっかりと具体的なきっかけを提示して、理解した上で志望していることを伝えるようにしましょう。
例えば、市役所職員の生の声をきっかけにしている場合には、下記のような志望動機を伝えることができます。
このような志望動機にすれば、しっかりと職員の生の声を聞いて志望していることや熱意が伝わります。
「職員とどんな話をしましたか?」や「聞いてみてどんな仕事をしてみたいと思いましたか?」等の質問も飛び交い、面接官の興味をそそる面接が行える可能性も高まります。
2.その市でなければならない理由を考える(志望理由・やりたい仕事)
次に、「どうして○○市を選んだのか」「この市でなければならない理由」を考えていきましょう。
その際、市役所の実際の仕事内容について調べてみるのがおすすめです。
(1)部署から考える
市役所の業務として住民である私たちがよく利用するのは、住民票や戸籍を取り扱う部署の窓口だと思いますが、市役所には窓口以外にも数多くの課があります。
実際に採用となったら、これまでの人生で全く関わりのなかった部署に配属される可能性も十分にありますから、事前に情報収集をして困ることはありません。
どのような部署があるかは市によって異なりますから、まずは受験先の組織図を確認してみましょう。
(インターネット上で「○○市 組織図」と検索するとヒットします。)
そして、受験先の組織図を見て、どのような課があるのかその全体像を把握しておいてください。
市によっては、住民課のようなどこの市にもある課もあれば、組織図を見ないと知り得ないような珍しい課が存在するところもあることが分かると思います。
例えば、東京都葛飾区や千葉県松戸市には「すぐやる課」という部署があり、ハチやカラスの巣の駆除、不法投棄の撤去など、すぐやるべきことをいち早くやってくれる部署があります。
また、福岡県福津市には「うみがめ課」という部署があり、地域に特化した部署があるケースもあります。
通常の市役所には必ずそういった部署が存在していますが、名前のインパクトがあるからこそ、住民の認知度も高く分かりやすいと好評価されているのです。
こういった「調べないと知り得ないこと」を面接に盛り込めると、プラスの評価につながりやすいでしょう。
市によって多種多様ですので、ぜひ組織図を見て、面接の内容の参考にしてください。
(2)政策から考える
実際に市が展開している政策(施策)からを調べてみるのもおすすめです。
住民である私たちが普段の生活の中で、市の政策を目にする機会はほとんどないと思いますが、実際には市が様々な計画を立てた上で、まちづくりや子育て支援、高齢者支援などが行われています。
どのような政策を行っているかは市によって異なりますから、まずは受験先の各種計画を確認してみましょう。
初めに確認しておくと良いものとしては、「総合計画」「基本計画」「基本構想」「基本指針」(市によって呼び方が異なる)と呼ばれる”市の全体的な方向性”を示したものです。
(インターネット上で「○○市 計画」と検索するとヒットします。)
その中で興味が湧いた分野があったら、興味のある分野の個別計画(「子育て支援事業計画」や「介護保険事業計画」など。市によって呼び方が異なる)を見ていくと、その市がどのような課題に対し、どのように取り組んでいるのかが分かるようになります。
例えば、市役所の政策をきっかけにしている場合には、下記のような志望動機を伝えることができます。
また、説明会に参加した場合には、そのときの資料をもとに政策について深く調べてみるのも良いでしょう。
特に、説明会で聞いた内容や、実際に勤めている公務員の話を参考にすると、オリジナリティが生まれやすく他の受験生との差別化を図ることもできます。
説明会に参加できない場合や、直接職員と話す機会を設けることができない場合は、市役所に電話をして聞いてみるというのも一つの方法です。
実は、面接の時期が近くなると、市役所に直接問い合わせる受験生は少なくありません。
市役所は毎年そういった受験生からの電話に対応しているので、意外と親切に対応してくれますから安心してください。
情報収集は色々なところからできるので、ぜひ頭や足を使って色々な角度から調べてみてください。
調べていくと、少しずつ自分のやりたいことも見えてくるでしょう。
(3)街歩きから考える
市の街中を歩いてみるのもおすすめです。
実際に街の様子を目で見て感じることで、他の街にはない良いところや課題が見えてくることがあります。
市には名所と呼ばれるようなところもあるかと思いますが、そういった場所だけではなく、普段生活の中で行き来するような場所や市の分庁舎、市が運営している建物などに行ってみるのも良いでしょう。
例えば、街歩きをしていると以下のような課題が見つかることがあります。
・同じA町でも、活気のある商店街とシャッター街の差があるのはどうしてだろう
・子育て支援に注力している市だけど、子どもが安心して遊べる公園が少ない気がする
こうして街歩きで見つけた課題を、以下のように”やりたい仕事”として提示するのも良いでしょう。
また、街歩きをしていると、声をかけられたりお店の人と会話したりすることもあると思います。
そういった会話の場面は面接のネタになるチャンスですので、ぜひ住民の生の声を聞いてみてください。
街歩きのハードルは高いかもしれませんが、実際にしてみると自分自身も楽しいですし、身につくものも多いですから、ぜひやっておくことをおすすめします。
実際の面接で「街歩きをしましたか?」と聞かれることも多々ありますから、自信を持って話せるようにするためにも、気づいたことや改善点などをノートやメモにしっかりまとめておきましょう。
3.なぜ、市役所職員なのかを考える
2で、志望理由ややりたい仕事が明確になれば、3はわりと簡単に答えが出せるのではないかと思います。
“なぜ、市役所職員なのか”というのは、分解すると以下のように分けることができます。
・なぜ、国家公務員ではなく地方公務員なのか
・なぜ、県庁ではなく市役所なのか
これらは、そっくりそのまま面接で聞かれることも多いため、それぞれまとめておくことをおすすめします。
どの質問も、それぞれ仕事の質が異なることを理解していれば、スムーズに答えられるようになるはずです。
例えば、「なぜ、民間企業ではなく公務員なのか」については、民間企業と公務員の仕事内容が大きく異なることを考えてみてください。
民間企業にはサービスの対象となる顧客がいて、利益を追求するための仕事が求められています。
しかし、公務員のサービスの対象は全住民(全国民)であり、利益は関係なく全住民のために仕事をします。
こうした異なる性質を理解することで、面接の際にも迷わずに答えることができます。
その他に、例えば「なぜ、県庁ではなく市役所なのか」という質問であれば、
という風につなげることができます。
上記のように「自分のやりたい仕事は市役所職員でないとできない」という流れに持っていくことができれば、面接で変に突っ込まれるということもありません(圧迫面接ではあり得るかもしれませんが)。
自分の調べ上げたことをもとに、自分の考えで、なぜ公務員を志望するのか、なぜ○○市を選んだのか、どういうことをしたいのかを具体性を持って伝えることができれば、面接官の評価も上がるでしょう。
4.市役所職員としての自分の適性はどこにあるのかを考える
(1)求める人材像から考える
市役所職員として必要な適性は、採用案内のパンフレットやホームページなどを見ると分かりやすいです。
例えば、福岡県福岡市の公式HPに書かれている例を取り上げてみます。
「市民から信頼される人材」
・市民に信頼される公共サービスの提供者
・市民と共働する行政のプロフェッショナル
・チャレンジ精神あふれる自律型職員
このように、各市役所の情報を収集すると、明確な人材像が掲げられていることも多いため、志望する自治体ではどのような人材が求められているのかを確認しておきましょう。
市役所で働きたい理由や熱意が伝わっても、これらの適性に当てはまらないとなかなか合格をものにすることはできません。
そのためにも、自分がいかにその人材にマッチしているかを経験談を通して面接官に説明できるようにしておく準備が必要です。
つまり、志望動機と自己PRはつながっているということです。
全ての人材像にマッチする必要はないので、自分に近い部分を上手くチョイスして考えていくと良いでしょう。
(2)コミュニケーション能力があるかどうか
市役所の職員として最も重視されるスキルは、コミュニケーション能力だと言われています。
「市役所」という大勢の職員の中の1人となりますので、上司や同僚とのコミュニケーションはとても重要です。
また、市役所の顧客に当たるのはその市に住んでいる住民全員ですので、住民と関わるためにも、コミュニケーションの高さが求められることは自明でしょう。
コミュニケーション能力の高さは、必ずしも会話をすることばかりではないので、会話をするのが得意である必要はありません。
人の話に耳を傾ける、的確に返答できるといったこともコミュニケーション能力の一つですので、そういった部分がこれまでの経験の中であるか、学生生活やアルバイトなどの経験から人生を振り返ってみてください。
例えば、よくある惜しい自己PRとしては、以下のような内容です。
このような事例の場合、”住民相手”となる市役所の業務と”子ども相手”となる塾講師のアルバイトで培われるコミュ力には違いがあるので、コミュニケーション能力としてはアピール不足と言えます。
といったエピソードであれば、大人とのコミュニケーション能力をアピールすることができますので、上手く変換することが大切です。
これから就活をする大学生の中には、コミュニケーションを苦手とする方もたくさんいると思います。
こういったいわゆる”コミュ力に自信のない方”が市役所職員となるのは、なかなか難しいところではあります。
かつて教え子の中には、いわゆるコミュ障で市役所の面接に落ちてしまったものの、筆記試験の成績がとても良かったこともあり、国家公務員として合格した人がいます。
この教え子は、自分のコミュニケーション能力が不足していることを自覚しており、それを面接でも伝え、別のところでしっかり自己PRをできていたからこそ、国家公務員になることができたのだと思います。
こういう例もありますので、自分の適性を把握し認め、自分の適性に合った組織に就職するというのも一つの方法です。
志望動機を聞かれないことがあるって本当?
市役所の面接において、志望動機はよく聞かれる項目の一つではありますが100%ではありません。
実際に志望動機を聞かれなかったという話も何度となく聞いていますし、聞かれなかったからといって不合格になるというわけでもありません。
もともと「志望の理由はしっかり作ってきてあるだろう」という仮定のもと、全く別の質問をして見極めるという面接官もいるようです。
また、同じ市役所の面接でも、①の部屋の面接では聞かれて、②の部屋の面接では聞かれなかったなんてこともザラにあります。
面接カードがあり、そこには必ず志望動機を書くので、そこで判断しているというのも大きな要素の一つだと思います。
受験生の中には「志望動機を聞かれなかったから、これは不合格?」と不安になる方もいるようですが、聞かれても聞かれなくても受かる人・落ちる人がいるので、過度に不安になる必要はありません。
面接官は限られた時間の中で受験生の公務員としての適性を判断し、見極める仕事をしています。
似た志望動機もたくさんあり、オリジナリティー溢れる回答にはなりにくい部分ですので、あえて聞かない選択をする面接官もいるというだけです。
ただし、志望動機は自己PRとも近い部分ですので、どのような質問が飛んできても冷静に柔軟に対応できるよう、”準備をしない”ということは避け、しっかり対策をしておきましょう。
まとめ
今回は、市役所職員として働きたい方向けの志望動機の作り方や考え方について解説しました。
はじめに紹介した通り、公務員の面接試験は重要度が高く、面接の内容が合否に大きく関わります。
採用人数の少ない面接試験を合格で終えるためにも、万全の対策をとって臨んでください。